私たちの体には、1,000種類以上の菌が体の部位ごとに存在しています。皮膚や消化器官、口腔や呼吸器など、各部位の環境に適した役割を果たすこれらの菌を常在菌(じょうざいきん)といいます。常在菌は、常に体に存在するため、健康維持には欠かせない菌とされています。
本記事では、常在菌の特徴や種類、皮膚トラブルの原因、そして肌の健康を保つ方法について解説します。
常在菌とは何か
常在菌とは、人間の体内に日常的に存在する菌のことです。健康面で重要な役割を果たしており、顔には顔に適した菌、腸には腸に適した菌など、体の部位ごとに固有の常在菌が存在しています。また、体の環境に適応した菌が定着しているため、人によって常在菌の種類や割合は異なります。常在菌は、免疫力を高めるなど、健康に役立つ作用をもたらしているのです。
常在菌の種類とその働き
常在菌の種類は、大きく分けて「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」の3つに分類されます。ここでは、それぞれの菌の性質と皮膚への影響を解説します。
善玉菌
善玉菌は、私たちの体や健康にとって良い影響をもたらす菌です。
肌に常在する善玉菌は、肌の表面に存在する皮膚常在菌叢(皮膚フローラ)のバランスを保ち、外部からの化学物質や微生物の侵入を防いだり、水分や体内の成分が流出したりするのを防ぐ役割をもちます。これにより肌の乾燥や肌荒れを防ぐことができます。
また、腸内細菌は腸内の免疫機能を強くするだけでなく、肌の免疫力を高め、皮膚の健康をサポートしてくれます。
悪玉菌
悪玉菌は、体にとって悪い影響をおよぼし、おもに病気の原因となる菌です。
たとえば、黄色ブドウ球菌は肌に生息する悪玉菌で、アトピー性皮膚炎や肌荒れを悪化させる原因となります。腸内に存在するクロストリジウム属菌や一部の大腸菌には、毒素を産生し、炎症や感染症を引き起こす可能性があります。悪玉菌の増殖は、日々の食生活や生活習慣の乱れから引き起こされることが多いといえます。
日和見菌(ひよりみきん)
日和見菌は、環境に応じて役割が良い方向にも悪い方向にも変化する、善玉菌や悪玉菌のどちらでもない菌のことです。通常は無害ですが、体の免疫力が低下したり、善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れたりした場合に、有害な影響を及ぼすことがあります。
たとえば、顔にできるニキビは日和見菌の一種である「アクネ菌」が関係しています。アクネ菌は、普段は肌に潤いを与え、弱酸性に保つ働きをしていますが、毛穴が詰まり酸素のない環境になると過剰に増殖し、ニキビの原因となることがあります。
皮膚トラブルと常在菌の関係性

皮膚には、「ブドウ球菌」や「アクネ菌」、「黄色ブドウ球菌」、「ミクロコッカス属の菌」、「マラセチア菌」、「カンジダ菌」、「白癬菌」などの常在菌が生息しています。これらの常在菌は、さまざまな形で肌を守っていますが、バランスが乱れると皮膚トラブルの原因となります。
皮膚に存在する代表的な常在細菌とは
皮膚には、多くの常在菌があり、その中から特に代表的な3つの常在細菌について詳しく解説します。
表皮ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌は皮膚の表面や鼻腔、毛穴といった皮膚の大部分に存在しています。この菌は外部からの刺激から肌を守るなど、プラスの働きをする善玉菌です。
表皮ブドウ球菌は、汗(アルカリ性)や皮脂などからグリセリンや脂肪酸を作り出します。これらの脂肪酸は肌を弱酸性に保ち、抗菌ペプチドを生成して黄色ブドウ球菌の増殖を防ぎます。また、表皮ブドウ球菌が出すグリセリンには、皮膚のバリア機能を保つ役割があります。
アクネ菌
アクネ菌は、皮膚に付着する病原性の強い細菌の増殖を抑える役割を担う日和見菌です。普段は善玉菌の働きをしていますが、ストレスなどが要因となって皮脂の分泌量が増えると、毛穴の中で増殖し、ニキビの原因となることがあります。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は、皮膚の表面や毛穴に存在する悪玉菌です。健康的な成人の約30~40%が保有しています。黄色ブドウ球菌は単に存在しているだけでは問題ありませんが、アルカリ性の環境を好むため、肌の弱酸性を保つ善玉菌のバランスが崩れると増加する傾向があります。
美肌に効果的とされる食べ物
ここでは美肌づくりに効果的とされる、発酵食品と低GI食品の特長と体への影響を解説します。
発酵食品
発酵食品から善玉菌を摂取することで、腸内環境を整えることができます。腸は肌や体のさまざまな器官に影響を与える重要な臓器です。美肌を目指す方には、発酵食品をうまく取り入れながら腸内環境を整える「腸活」がおすすめです。
発酵食品は、毎日の生活の中で手軽に取り入れられ、消化のサポートや体の免疫を高めるのに効果的です。発酵食品である、ヨーグルトやキムチ、納豆などは乳酸菌やビフィズス菌を含んでいます。
低GI食品
GI値とは、食品に含まれる糖質がどれだけ速く吸収され、食後の血糖値の上昇に影響を与えるかを示す指標です。
GI値が高い食品は、食後の血糖値を急激に上昇させ、血液中のインスリンを大量に分泌させます。これが男性ホルモンを活発にし、結果として皮脂分泌や毛穴の詰まりを引き起こすと考えられています。また、高血糖の食事が続くと過剰に分泌された皮脂が悪玉菌のエサになり、悪玉菌が優位になることでニキビができやすくなります。
美肌を保つためには、高GI値食品にあたる白米やパン、麺類、白砂糖などの炭水化物を低GI食品で代用するのがおすすめです。低GI食品の例には、全粒粉のパンやオートミール、豆類などがあります。
肌の健康に役立つ生活習慣

肌のバリア機能やターンオーバーを正常に保つことで、肌トラブルが起こりにくく、健康的で清潔な肌を維持しやすくなります。ここでは、肌の健康に役立つ生活習慣について、実践時の注意点を交えながら解説します。
食生活の改善
たとえば肌のターンオーバーを整えるためには、たんぱく質やビタミン、ミネラルを豊富に含む食事が最適です。また、適度な炭水化物や脂質の摂取は健康維持に必要です。食生活を改善し、バランスのとれた食事を心がけることで、肌を健康に保ちやすくなります。
適度な運動
適度な運動は血行を促進し、皮膚のターンオーバーを活発にすることから、くすみや毛穴の詰まりの改善を期待できます。
また、表皮ブドウ球菌など肌にとってよい働きをする美肌菌は、汗や皮脂をエサにして保湿成分と抗菌成分を作り出す性質があります。たとえば、軽いストレッチやヨガを就寝前におこない、肌に少し汗をかいた状態で寝ることで、美肌菌を増やせると考えられています。激しい運動をする必要はなく、無理なく継続できる運動を取り入れましょう。
十分な水分補給
水分を十分にとり、内側からうるおいを与えることは、健やかな肌作りに欠かせません。1日あたり1~1.5リットルを目安に摂取しましょう。
朝晩の洗顔
肌を清潔に保つためには、朝晩の洗顔が大切です。ただし、洗いすぎには注意してください。肌に優しく刺激の少ない洗顔料を使って、皮膚表面の汚れや余分な皮脂を取り除き、肌を清潔に保ちましょう。また、洗顔後の保湿も忘れずに行いましょう。
まとめ
肌や腸などの各部位には固有の常在菌が生息し、健康にとって大きな役割を果たしています。しかし、そのバランスが崩れると肌トラブルの原因になります。常在菌のバランスを保つためには、美肌につながる食生活や肌の健康を保つ生活習慣を心がけることが大切です。